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先に外で待っていて下され、とどこか照れたように幸村に告げられ、結衣もはにかみながらうんと返す。

ここは婆裟羅中央公園の側にある、お洒落なカフェ。お昼時の今、若者達のカップルで賑わっていた。

「可愛いよなぁ、結衣ちゃん」

「幸村様が羨ましい…」

その中に、独り身な赤い集団もちらほら。

昼代は自分が払うと言って譲らなかった幸村に、結衣は店の外で幸村を待ちつつ、彼女扱いされていることに薄く頬を桃色に染めて笑みを溢す。

「幸村ってば…」

その様子を微笑ましいと見守る赤い集団が店の外にもそこかしこに散らばっていた。

チリンチリン、と可愛らしい鈴の音が背後で鳴り、会計を済ませた幸村が出てくる。

「お待たせ致した。さ、少し早いが大学へ行くで御座る。結衣のとってる講義はたしか午後イチで…」

「うん。片倉先生の講義」

ちょんと互いに触れた指先をそっと絡めて、照れ隠しに会話を続ける。

「片倉殿のか。ならば尚更遅れるわけにはいかぬな」

「うん。そういう幸村は?」

「俺は北条殿の日本史で御座る」

「お爺ちゃん先生か…。いつも風魔先輩と一緒にいるけど親戚なのかな?」

一度婆娑羅中央公園の中へ足を踏み入れ、ばらばらと好き勝手している他チームの面々を視界に入れながら結衣は小首を傾げた。

公園を突っ切り、公園から駅へと繋がる、段数も横幅もある階段を上がる。

「風魔殿は北条殿の養子だと聞いたことがある」

「えっ、そうなの?」

「うむ。何でもご両親を早くに亡くして、親戚であった北条殿に引き取られたとか」

「あっ…ごめん、私、勝手に…」

「大丈夫で御座る。きっと風魔殿は怒ったりしないで御座る。それに結衣は人に言い触らしたりはすまい」

「そんなことしないよ!」

真っ直ぐな目で幸村を見上げてくる結衣に、幸村も分かってると優しい眼差しで返す。

「………」

「………」

そして、思わぬ形で見つめ合うことになった二人は視線を外すタイミングを失った。
互いに徐々に顔を赤くし、周りでは仲間達がこそこそと今だ!とか幸村様ガンバ、だとか結衣ちゃん!とか妙な応援が始まる。

「結衣」

「っ、はい…」

ぎゅっと繋いだ手に力が入り、心臓がどきどきと音を立てる。
ちょうど階段の中腹に立つ二人は公園の中からも良く見えたが、結衣も幸村も緊張し過ぎて相手しか見えていなかった。

「おっ、なぁにやってんだいお二人さん」

だから二人は急に声をかけられて肩を跳ねさせる程驚いた。

「――っ!?」

「っ、お、お、俺はまだ何もっ!!…なな何用で御座ろう前田殿!?」

パッと慌てて視線を反らした結衣と幸村は、その拍子に繋いでいた手も離してしまう。

「あ…、もしかして邪魔しちまったかい」

「え、いや、あの、その…」

しどろもどろで答える幸村よりも、せっかくの所を邪魔されたと仲間達が恨めしそうに慶次を睨んでいた。



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